日本社会心理学会・第8回春の方法論セミナー開催予定

2021年3月1日(月)に、日本社会心理学会・第8回春の方法論セミナー「既存データの活用による研究展開-二次分析研究・メタ分析」をウェビナーにて13:00~16:30の時間帯に開催します。 企画は日本社会心理学会学会活動委員会で、講師は国里愛彦先生(専修大学)と浜村 武先生(Curtin University)に担当いただきます。よろしくお願いいたします。

セミナー概要

現在のコロナ禍において感染リスクを避けた上でいかに研究を進めるかは、社会心理学はもちろん、心理学全体にとっても大きな課題となっている。その一つの解決策は、Webを利用したリモートによる調査や実験であり、これは夏のセミナーのテーマで扱った。もう一つの解決策としては、既存の知見やデータの活用による研究展開が考えられる。自身の研究に既存の知見やデータを活用することができれば、時間や金銭、労力のコストを節約できて効率的であるとともに、自らの研究領域の概観・俯瞰や、自身では収集困難なデータによる新たな研究展開にもつながる。

今回の春のセミナーでは、新規にデータを収集しない研究方法として、二次分析研究とメタ分析に注目する。二次分析研究は、既存データを対象にして、既存研究とは異なる、新たな目的や方法を用いて分析することを指す。メタ分析は先行研究の知見を系統的な方法で収集・整理して、それらを統計的に統合する方法である。二次分析研究やメタ分析は、研究法や心理統計の授業や書籍でも詳細に説明されることが少なく、学生はもちろん教員、研究者も十分に理解できていない場合がある。しかし、メタ分析で特定分野の研究知見を俯瞰的に整理することや、二次分析研究で自分自身では収集できないような大規模調査のデータや、他の学問分野のデータを活用することは、コロナ禍における苦肉の策というよりも、研究展開上の大きな魅力があると言えよう。

これらの方法論について、より詳しく学ぶため、今回のセミナーでは講義編と実践紹介編の2部構成を採用する。講義編では、各手法の基礎知識や手順を講師の国里先生から体系的にわかりやすく解説いただきたいと考えている。実践紹介編では、講師の浜村先生から自らの研究経験を踏まえて、当該手法の採用に至った経緯や苦労話、醍醐味、注意すべき点など論文におさまらない内容も含めてお話いただく予定である。

■講義編  国里愛彦 先生(専修大学)

コロナ渦によって、心理学研究の進め方は大きく変化してきている。これまで、多くの心理学研究において新規のデータ収集が行われてきた。しかし、感染拡大の影響により、従来どおりのデータ収集が難しくなってきている。大学・大学院での心理学教育ではデータ収集方法について多くの時間が割かれているが、既存のデータの再解析についてあまり学ぶ機会は多くない。もちろん感染収束によって従来どおりのデータ収集が可能になればよいが、この機会に二次分析研究を行うことは研究方法の幅を広げることにつながるかもしれない。今回のセミナーでは、既存データに対する二次分析研究について取り上げる。二次分析研究にも様々な方法があるが、今回は、既存の個別データに対して再解析を行う研究と、系統的展望研究のように既存の要約統計量に対してメタ分析を行う研究の方法について紹介する。前者については、昨今の再現可能性の問題も考慮した研究実践について説明を行う。後者については、具体的な研究実施のガイドラインなども紹介しつつ、Rを用いた解析も含めた解説を行う。

■実践紹介編  浜村 武 先生(Curtin University)

研究に必要となるデータを取得するためには、実験計画を立て、質問紙の設計を行うというのが一般的な手法だが、データの取り方には他にも様々な方法がある。この講演ではメタ分析と二次分析研究に着目し、社会心理学研究における実践例を論文におさまらない内容も含めて紹介する。

メタ分析:過去の研究結果を体系的かつ定量的に整理を行う手法であり、さまざまな使い方が可能である。例えば研究領域の新たな展開を論ずるためのレビュー、または文献の理解を深めるステップとして行うレビューなどが行える。

二次分析:二次データには研究に使いやすいフォーマットで整備されているもの(例:世論調査)とそうではないものがある。後者の例としては新聞記事、ネット検索、「いいね」などがあり、例えばテキストマイニングの手法を使ったデータの処理が必要となる。二次データを用いる醍醐味は効果的に使うことで従来の手法では難しかった研究テーマが可能となることであるが、その一方でデータの妥当性の確保に苦労する点もある。これらの点を踏まえ、実践的な観点から講演を行う。